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2008年8月

中国の政策(上海出張)

  友人宅でのおしゃべりでは一通り近況報告の後、中国に関する偏った日本の報道について話が盛り上がった。冷凍ギョウザ問題のせいで今日本では「中国産食品=あぶない」という構図ができてしまった。しかし、冷静に受け取れば冷凍ギョウザ問題は“事故”なんかではなく明らかに“事件”だ。加工場所が中国か日本かなど問題ではない。たとえ中国で毒が混入したとしても管理がずさんな国だということにはならない。あの「グリコ森永事件」と同種の問題だ

 北京オリンピックに向けての中国の政策に対する報道を日本で聞いた。1)毎月11日は整列の日。 2)外国人に聞いてはいけない8つの質問。「個人のプライバシーや家族について」「収入や支出について」「年齢や結婚の有無について」・・・等々。3)自動車のナンバープレート別交通規制

 悲しいことに全て中国をバカにしたようなトーンで報道していた。マスコミと日本人の良識と品性を疑う。1)も2)も3)も全て良いことではないのか。1)についてはわざわざ「整列の日」なんて決めないと整列できない、なんてレベルの低い国なんだという論調。大阪人なんて中国人に負けないくらい整列できない(一般化して大阪人の皆様ゴメンナサイ)気がするが・・・。今回の上海滞在中も地下鉄の整然とした乗り降りに僕自身驚いた。中国は明らかにマナーが向上している。2)についてもわざわざこんなことを決めなければならない程中国人は良識がないという論調。確かに僕も初対面でいきなり年収を聞かれて戸惑った経験がある。しかし、この手のことは文化・習慣が違えば当然よくあること。また、悪気がなくても相手に失礼な質問をしてしまうなんて誰だって日常的にしてしまっている。3)については車輌を半分にしてもまだ空気汚染が世界基準に達していないという報道の仕方。僕は逆に環境問題に対してこれだけ大胆に対策を行っていることに感心している。たとえ目的が中国のメンツだとしてもこの実行力は賞賛に値する。環境先進国と口で言いながらも手をこまねいている日本にはとても真似できない

 環境問題に対して日本は技術的には世界トップレベルだろうが、政策に関して言えば中国に遠く及ばない。この北京の車輌規制以外にも、交通渋滞解消が目的かもしれないが、上海やシンセンでは一日に発行するナンバープレートの数を制限している

 6月1日から中国全土でレジ袋の有料使用制度を実施し、0.025mm以下のレジ袋の生産・販売・使用を原則禁止とした。友人によると明らかに効果が上がっているとのこと。例えば日本で我家の近所のスーパーではこちらから「袋をいらない」と言えば5円割り引いてくれるが、何も言わなければレジ袋をくれる。周りを見渡しても買物袋を携帯している人の方が明らかに少ない。その他、数年前から北京では全面ガラスのビルを設計することが禁止になったと聞く。都市の緑化率の目標は30%。中国政府は環境基準を満たさない企業の摘発にも力を入れている。中国の多くの問題は政策が間違っているわけではなく、政策を全国に行き渡らせるのが難しいという状況だ

 それより、友人によるとこのオリンピック期間中に明らかにおかしいことが起きているという。それは、身なりの汚い貧しい人たち(多くは地方からの出稼ぎ労働者)が急に街から消えたというのだ。そういえば街を歩いていて妙にきれいだった気もする。この「汚いものは隠してしまえー」という考えを人間に対しても実行してしまう中国政府の怖さを少し感じる

 色々おしゃべりの末、日本での中国に対する論調がおかしいのは、日本人が今中国人を脅威に感じているため、少しでも粗を探して安心したいのではないだろうかと推測するに至った。親中派の僕としてはなるべく両国が仲良くなるような報道をしてくれないものだろうかと単純に考えてしまう

汾陽路79号花園住宅(上海出張)

  フランス租界地の花園住宅を見にでかけた。当時、庶民は里弄(リーロン)住宅に住んで、金持ちは庭園を持つ花園(フアユユエン)住宅に住んでいた。復興(フーシン)路から汾陽(フェンヤン)路、太原(タイユエン)路を南に入ったところに位置するこの住宅は1905年にフランス租界公董局の総董の邸宅として建てられた。現在は上海工芸美術博物館として一般公開されている。入場料は8RMB(120円)。

 ぱっと見、ホワイトハウスのミニチュア版のような印象のフランス後期ルネサンス様式の建物。上品でかわいらしい外観。南面の広い芝生庭園を前に白いシンメトリーのファサードが浮き立つ。外観の華やかな雰囲気に比べて内部は少し地味。天井・床・階段・建具などの細部意匠はなかなか面白いが、全体的にこの手の建物にしては豪華さに欠ける。やっぱり庶民の想像を超えるような華麗さがほしい。僕だったら「天井高さに変化をつけて空間にメリハリを持たせるなあ」などと考えながら眺める。また、建物の雰囲気に合わせて展示方法を工夫したり、各室の利用方法に少し気を使うと、お金を払って見学する価値があるような場所になると思うのだが・・・

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グランド・ハイアット上海(上海出張)

 著名建築家K氏が中国の中規模都市の地区計画プロジェクトをやっており、その会議に同席するために僕もやってきた。Kさんのおかげでその晩はグランド・ハイアット上海に泊まることになった。

 グランド・ハイアット上海は浦東(プードン)の金茂(ジンマオ)ビルの53階から87階に位置している。世界で一番高いホテルと言っても良いかもしれない。33層の吹抜けアトリウムが圧巻。ビルの88階は展望台になっており、昔そこからこの吹き抜けを見下ろした覚えがある。展望室内は無造作に現れた鉄骨がじゃまだった記憶がある。ちなみに金茂ビルの鉄骨工事は僕が昔在籍していた新日鉄が施工している。新日鉄はかつて上海や香港を中心に海外で数多くの鉄骨工事を手がけていたが、香港空港をはじめとする赤字プロジェクトが続いて海外撤退を余儀なくされた。猛烈な経済発展を続ける中国に多くの企業が進出し始めた時期に撤退するという皮肉な結果になった。日本人や中国人の多くの優秀な人材が力を発揮する機会を失ってしまったのは非常に残念な気がする。企業経営はつくづく難しい。

 少し遅めにチェックインした我々は部屋に荷物を置いて、早速バーで一杯飲むことにした。そう、やはりあのアトリウムの下のバーへ行かないわけにはいかないだろう。つい、馬鹿みたいに吹抜けを見上げてしまう。このサイズのアトリウム空間は体験したことが無い。規模の勝利。やっぱりすごい、あっぱれだ。ときどきアトリウムを見るために宿泊客らしき人たちが店を横切るが、よく見ると客は僕ら2人だけのようだ。動線計画が悪く、お店の場所が分かりにくいためだろうか。ただ、この場所がホテルの最大の売りであることは間違いない。

 僕らが飲み始めると二胡、琵琶、ピアノ、ベースの4人編成の生演奏が始まった。伝統楽器でポップスを演奏するという一時期流行った「女子十二楽坊」のような雰囲気だが、演奏は女子十二楽坊より上手だった気がする。二胡と琵琶を演奏する女性2人はチャイナドレスに身をまとって華やかだったのだがピアノとベースを演奏する男性は2人ともスポーツ刈りの冴えない風体だったのが残念。せっかくのポテンシャルがもったいない。また、客が僕らだけだったためにずっとこちらを向いて演奏されるのには参った。音楽も心地よい、非常にいい時間を過ごした。

 エレベータを降りて客室へ向かう廊下はこの大きな吹抜けに面している。手すりも低く、廊下から見下ろすとちょっと足がすくむ。この廊下からモノを落としたら大変なことになる、よく実現したものだ。反対に細かいことばかりを気にしていては新しいものを創ることはできないということなのだろう

 客室内は玄関、寝室、洗面の3つのスペースに分かれているが、扉が一枚も無く、スムーズなつながりが気持ちよい。寝室と洗面の壁一面が足元からガラスとなっており、外の景色を大きく切り取っているバスタブに浸かりながら景色を楽しめるので、夜と朝の2度も風呂に入ってしまった。

Dscn0399Dscn0372Dscn0394    僕が「早く自分でもこんなところに泊まれるようにならなくては。」と言うと、「自分で泊まっちゃダメだよ。」とKさんに言われてしまった。よし、クライアントが僕にデザインを頼むために最高級ホテルに案内するようにならなくては

栓抜きビル、里弄住宅(上海出張)

   明日は北京オリンピックの開会式、タイミングの悪いときに上海にやってきた。さぞかし通関が大変なことだろう。ところがすんなり入国できた。今までで一番手続きが早かった気がする。第2ターミナルがオープンしたばかりなので空港がガラガラだったのだ。第1ターミナルに比べてデザインも施工もかなり良い。

 バスで浦西(プーシー)の街中へ向かった。うとうとしながら外の景色を眺めていると中国一ノッポの金茂(ジンマオ)ビルの隣にそれ追い抜く高さの上海環球金融中心(森ビル)が新しく建っていた。「栓抜きビル」の通称通りの外観だが、その栓抜きの穴は四角い。もともと丸い穴のデザインだったが、日の丸を想起させるということで四角に変更された経緯がある。雑誌などで掲載されていたパースの通り正面はきれいなファサードだったが、横から見るとかなりプロポーションが悪い。とはいっても、日建設計がデザインしたビルも3棟ほども含めて浦東(プードン)地区の高層ビルでは金茂ビルと森ビルが圧倒的な存在感を示している。Dscn0462

金茂ビルの地上88階420mに対して森ビルは地上101階492m。台湾の台北101に続いて世界で2番目の高さを誇る。ただし、それを上回る高さのビルが現在世界で3棟建設中である。中でもドバイで建設中のブルジュ・ドバイは地上162階818mと他を圧倒している。バブル経済時には高さ競争をするものらしい。1920年代のクライスラービルとエンパイヤーステートビルの高さ競争に引き続き、現在は中国やドバイのバブル地でを高さ競争が繰り広げられている。

 ホテルチェックイン後は地元のゴチャゴチャした雰囲気を味わいたいと思い、昔の記憶を頼りに街歩きを始めた。南京東路から南へ向かい、淮海(フアイハイ)路と復興(フーシン)路の間を西へ適当に歩いた。

 思った通り里弄(リーロン)住宅があちこちに見られる。里弄(リーロン)とは路地、または路地でつながる地区全体のことを指す。里弄住宅は1920年代当時租界内に大量流入した中国人のために西欧人が江南地方の伝統的な住居を都市型に改良してつくった連続住宅。屋根窓が特徴的でどこかかわいらしいファサード(立面)。生活の香りがプンプンする里弄(リーロン)はとても魅力的だが、中へ入って行く勇気が無い。今回は表の通りから覗いて写真を一枚撮るに止めた。海外の町を旅行していると感じることだが、この「生活の香り」というのは非常に重要だ。いくら美しい建築物が並んでいても生活の香りがしない町は魅力に欠ける。人間は結局人間の活動に興味があるのだろう。この生活の香りを代表するのが洗濯物だ。妻によるとアジアでもヨーロッパでも魅力的な町には洗濯物が表に溢れているという。日本ではベランダに布団を干すことすら禁止するマンションが多いが、いかがなものだろう。建築家岸和郎氏によると都市は「水平の秩序と垂直の欲望」で説明することができるという。そして香港の街の魅力を道路に飛び出た看板にあるという。これは通常垂直に伸びるはずの欲望が町の秩序を司る道路にまではみ出しているのだ。この公と私が混ざったあいまいな空間が都市に魅力を付加している。洗濯物に代表される生活の香りが溢れるこの里弄(リーロン)の魅力も同じことなのだろう。

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 歩いていると、竹の足場がかかった区域や、新しく外装し直された里弄住宅を見かけた。無考慮にペンキを塗りたくり、安物タイルを貼り付け、趣きが無くなってしまっていたが、急激な開発の波に飲み込まれて里弄住宅が消えていくことへの反省なのだろう。質の良い改修工事もそのうち現れてくると信じている

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