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「残すべき建築」/松隈洋

 語りかけるようなやさしい文章で、36のモダニズム建築を紹介してくれます。カッコイイ写真もけっこう掲載されています。多くの名建築が次々と取り壊されていく問題を静かに訴えかけています。素人でも読みやすいので、モダニズム建築に興味がある人におススメです。建築の本としては1800円とお手頃です。

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 僕は松隈さんの本を読むようになって、今まで右から左に抜けていた先人建築家たちの言葉が心に留まるようになりました。この本の中でも、色々な言葉を紹介しています。

「衰弱し、金銭によって腐敗させられたわれわれの社会に必要なのは、各人の心の底に+(プラス)を書き入れることだ。それで十分であり、それがすべてだ。それは希望である。」(ル・コルビュジェ)

「自ら建築家と名乗る以上は、あくまでも人間の側に立ってその生活の場の独立を防衛し、個人が喪失しようとしている自主性を積極的に回復すべき方向にその社会的職責を明確に自覚すべきである」(大江宏)

「建築とはすぐれて人間的な営為であるとも言うべきでありましょう。したがって私たち建築家にとって、建築とは何か、という問いに、言葉であれ、その作品においてであれ、それに答えるには、それと同時に、またはそれに先立って、人間とは何か、という問いに何らかの答えを用意しておかなければならぬことになるのであります。」(増田友也)

「一本の樹の下で、教師であると思ってもいない一人の人間が、自分らを学生であると思ってもいない数人の人々と、彼の現実化について話し合うとき、それが学校の始まりである。・・・確定された人間活動は、どんなものでもその始原においてもっとも素晴らしい。」(ルイス・カーン)

「『みていていやでない建築』をつくることも大切なことだ。」(吉田鉄郎)

 これらの言葉を読むと、総じて〝都市と人間〟〝建築と人間〟ということを真っ直ぐ見つめていたことを感じます。これに反して、現代都市がどんどん人間との関係が希薄になっていく気がします。また、評論家の松山巌さんの「建築という友」という文章を紹介していますが、建築に関わるものとして肝に銘じなければと思います。

「幸田露伴は貧窮がかならずしも悪いことばかりを人にもたらさない、貧窮には四つの功徳があると語る。『人を鍛ひ練る』『友を洗ふ』『真を悟らしめる』『人を養ふ』の四点である。・・・この友はバブル時代にはポストモダンと称する衣装をまとって現れた。・・・内面になにもなかったからやがて、この友は消えた。そして超高層時代はまるでエリートサラリーマンのように、汚れもなく身だしなみは良いが、いずれも同じく画一的。・・・あらためて町を歩けば・・・もはや懐かしい友の姿は稀である。・・・我々はどのように建築という『友を洗ふ』だろうか。それは過去ではなく未来の問題である」(松山巌)

 

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